漫画「ゼロからわかる携帯・簡易トイレ」の内容を詳しく解説するページです。このページは「3 吸わせきる編」が対象です。
最終更新日 2024年7月8日
記事執筆 長谷川高士
くまもと水と福祉の研究室 主任研究員
携帯・簡易トイレで最も大切なのは「水気を吸わせきる」ことです。「3 吸わせきる編」では、その目安を紹介しています。
Point 1
安定して安心できて「ごみに出しても大丈夫」と思えるまで、水気をじゅうぶんに吸わせきる
排せつ物をごみに出す携帯・簡易トイレ。最も大切なことは水気をじゅうぶんに吸わせきることです。水気をじゅうぶんに吸わせきるからごみに出せるのです。
吸わせきる目安は、水気が安定して安心できて「ごみに出しても大丈夫」と思えるまで、です。
吸わせきるって、どこまですればよいの?
排せつ物をごみに出す携帯・簡易トイレ。最も大切なことは水気を【じゅうぶん】に吸わせきることです。
では【じゅうぶん】かどうかは、どうやって判断すればよいでしょうか。どこまですれば【じゅうぶん】といえるでしょうか。
不安定なごみは出すのをためらう
普段から出している家庭ごみで考えてみましょう。
普段から出している家庭ごみの中に水分を含むものがあります。たとえば生ごみ。もしも水分が残っていたら、ごみに出すことをためらうかもしれません。
ご存知のとおり水分はとても不安定です。そして家庭ごみは収集され、処分先まで運ばれます。
「不安定なままで運ばれても、大丈夫だろうか」
この不安が、ごみに出すことをためらう気持ちの正体です。
安定しているから安心してごみに出せる
一方で、使用済みの紙おむつは、水分を含んでいるにもかかわらずごみに出すことには抵抗がありません。
通常使用の範囲内であれば安定しているため、「運ばれても、大丈夫だろうか」という不安を、使用済みの紙おむつには感じにくいからです。
吸収されれば安定して安心できる
そのままでは不安定な水分も、何か吸収されると安定します。
使用済みの紙おむつと同じ程度に安定していれば、ごみに出すことをためらわずに済む、すなわち安心してごみに出すことができます。
目安は「ごみに出しても大丈夫」と思えるまで
「吸わせきるって、どこまですればよいの?」
その答えは、安定して安心できて「(これなら)ごみに出しても大丈夫」と思えるまで、です。あるいは、「(これなら)収集しても大丈夫」と思えるかどうかを、収集する人の立場で想像することもできます。
もしも安定がじゅうぶんではなく「大丈夫」だと思えなければ、不足している安定性を補うことが必要です。
Point 2
じゅうぶんでなかったら、〈吸いとる何か〉をさらに足す
もしも安定がじゅうぶんではなく「ごみに出しても大丈夫」だと思えなければ、「吸いとる何か」をさらに足すなどして安定性を補うことが必要です。
このとき足すものは、先に入れたものと同じでも、同じでなくても構いません。
【じゅうぶん】に妥協は禁物
ごみに出せるのは、水分が吸収されて【じゅうぶん】に安定している場合に限られます。このときの【じゅうぶん】に妥協は禁物です。
「水気を吸わせきる」という表現の“きる”には、妥協せず【じゅうぶん】を追求してほしい、という願いが込められています。
量を増やせば吸収力と安定度は高まる
安定が【じゅうぶん】でないときに、吸収力と安定度を高める最もシンプルな方法は、〈吸いとる何か〉の量を増やすことです。
〈吸いとる何か〉の吸収力と安定度は、いずれも使う量に比例します。多く使えば使うほど、吸収力も安定度も上がる、ということです。
全体の吸水力と安定度が高まれば、結果として不足していた安定を補うことができます。要するに、足りるまで足せばよい、のです。
〈吸いとる何か〉の足し方の工夫
〈吸いとる何か〉の足し方の工夫を2つ紹介します。
足すものは同じでも、同じでなくても良い
量を増やすために追加する〈吸いとる何か〉は、既に使っているものと同じでも、同じでなくても構いません。
紙を「乾いた状態」で使う
たとえば、素材としての安定度が高い紙を足すことで、全体の安定度を高めることができます。
このとき吸水はじゅうぶんであり安定度のみが不足しているのであれば、「ポリ袋全体を乾いた新聞紙で包む」という方法が考えられます。
吸水前が最も安定度が高いことから、あえて水分に触れさせないことで素材の安定性を最大限に生かす工夫です。
Point 3
吸水ポリマー(凝固剤)は1回1包とは限らない
市販の携帯・簡易トイレに付属している吸水ポリマー(凝固剤)の多くが、「1回分」として数グラムずつ個包装されています。
しかし、毎回量が異なる尿の水分を吸収し、【じゅうぶん】に安定させるために必要な吸水ポリマー(凝固剤)の量は、1回1包とは限りません。
3-1. 排尿量は毎回違う
3-2. 1包の吸水ポリマーには吸水限界がある
3-3. 1包の内容量は吸水限界で決まる(はず)
3-4. 余裕がなければ1包では足りない
3-5. 吸水限界を“買い被る”リスク
3-6. “何包”使ってでも、安定させる
排尿量は毎回違う
私たちの排尿量は毎回異なり、少ないこともあれば多いこともあります。
1回の排尿量の標準範囲は200~300mL
一時的に尿を溜めておく臓器である膀胱(ぼうこう)に一定量の尿が溜まると、ヒトは尿意を感じます。尿意を感じて間もなく排尿したとすれば、1回の排尿量は概ね標準的な範囲の中におさまることになります。
成人の標準的な1回の排尿量は「200~300mL」とされています1。
膀胱は標準の排尿量よりも多く溜められる
排尿量には正常範囲があります。成人であれば1回の排尿量が「150~200mL(ミリリットル)以上」であれば正常とされています2。
この値のいう「正常」とは、膀胱の機能についてのことです。1回の排尿量が常に正常範囲外、すなわち150~200mLに満たなければ、「膀胱が正常に機能していないことが疑われる状態にある」といえます。
一方で、この正常範囲には上限がありません。このことは、正常な機能として「必要に応じてより多くの尿を溜めることができる」という膀胱の特徴を前提にしています。
標準範囲外は“しばしば”ある
私たちは毎回の排尿を、必ずしも尿意に従って行うとは限りません。必要に応じて早めにすることもあれば、タイミングを遅らせる(我慢する)こともあるでしょう。
ところで、1回の排尿では(基本的には)その時点で膀胱に溜まっている全ての尿が出ます3。
したがって、1回の排尿量が少ない時には100mL以下、多い時には400~500mL(あるいはそれ以上)になることは全くあり得ます4。そして、このような量が標準範囲外である排尿が“たまに”あるいは“しばしば”あることを、私たちは経験的に知っています。
1包の吸水ポリマーには吸水限界がある
吸水ポリマーは〈吸いとる何か〉に求められる吸水力と安定度を持つ素材です。ただし、その吸水力と安定度を高いレベルで両立させることはできません。
吸水量と安定度はトレードオフの関係
定量の吸水ポリマーの吸水量と安定度は、一方を高めれば他方が低下するという、いわゆるトレードオフの関係にあります。
したがって、同じ量の吸水ポリマーであれば、吸水量が増えるほど安定度は下がります。
この性質は他の素材と共通します。
安定度が一気に下がる変曲点がある
定量の吸水ポリマーの吸水量には「ここを超えると以降の安定度(ゲル強度)が大きく低下する」という変曲点があります。
変曲点を超える量を吸水すると、安定度が100分の1にまで低下することもあります。
これは吸水ポリマーに特有の性質です。
変曲点は吸水ポリマーの吸水限界
そもそも吸水ポリマーの素材としての安定度は、相対的には高いとはいえません。
その安定度がさらに、しかも著しく低下したとすれば、たとえ保水できていたとしても、その状態の吸水ポリマーは〈吸いとる何か〉の要件を満たしているとは、もはや言えません。
その意味で、吸水ポリマーには「変曲点という名の吸水限界がある」といえます5。
1包の吸水ポリマーには吸水限界がある
個包装された吸水ポリマーの内容量は、同じ商品であれば当然に同量です。
このことは、個包装された1包分の吸水ポリマーには吸水限界があることを意味します。
1包の内容量は吸水限界で決まる(はず)
では、1包の吸水ポリマーの内容量はどうやって決まるのでしょうか。
吸水力と安定度は製品ごとに異なる
吸水力や安定度などの吸水ポリマーの性能は、組成や製造法を変えることにより調整が可能です6。
ゆえに、異なる製品である吸水ポリマー同士を同量ずつ用意しても、吸水力や安定度が同じになるとは限りません。裏を返せば、性能を揃えたとき、製品ごとに吸水ポリマーの量が異なることは「大いにあり得る」ということでもあります。
製品の絶対量で吸水ポリマーの性能を担保することはできません。
品質・性能基準がない
2024(令和6)年6月現在、〈商品〉としての携帯・簡易トイレの品質や性能に関する客観的な基準はありません。したがって、1包の吸水ポリマーの内容量は「製造者の判断によって決められている」と推定するのが自然です。
そして、1包の内容量を決めるこの判断に「吸水限界が大きく影響しているはずである」という推測も、積極的に支持できるものです。
余裕がなければ1包では足りない
仮の具体例を設定して、検討してみましょう。
吸水限界が「2L」だったら
たとえば「2L」など余裕をもった尿量を設定し、吸水限界がそれ以上になるように1包分の吸水ポリマーの量を決めている、と仮定しましょう。
1回の排尿量が2Lになることは通常では考えられないことから、この吸水ポリマーは常に支障なく1回分として取り扱えます。
吸水限界が「300mL」だったら
次に1包の吸水限界が「300mL」である吸水ポリマーを使う場合を考えてみます。
排尿量が標準範囲内におさまっている(あるいはそれ未満である)間は1包を1回分として問題なく使用できます。
しかし、たとえば1回の量が500mLを超える排尿においては、吸水量が吸水限界を超えることから、このポリマーの1包は〈吸いとる何か〉として用を成しません。
このように吸水量に余裕がなければ、「1包では足りない1回」があり得ることになります。
吸水限界を“買い被る”リスク
吸水ポリマーについて気掛かりなことがもう1つあります。吸水量の測定方法です。
測定方法は3つに分けられる
吸水ポリマーの吸水性能(吸水量)を測定する方法の種類は、少なくとも8つ以上あります。
これらの方法は測定の目的によって3つに大別され、それぞれが測定する吸水性能の特徴は次のように説明されます7。
- 吸引力:水分を接触面から吸引して自らが膨潤する力
- 保持力:水分を吸収して保持する力
- ゲル化力:水分を吸収して流動性を失わせる力
ゲル化力と吸水限界
測定される吸水量で比較したとき、保持力とゲル化力の大きさの関係は次の不等式で表すことができます。
保持力としての
吸水量
>
ゲル化力としての
吸水量
この式は、ゲル化力としての吸水量を超える量を吸水ポリマーが保持できることを意味しています。ただし、ゲル化力としての吸水量を超えて吸水したとき、ゲル強度(安定度)は大きく低下します。
ゲル化力としての吸水量こそが変曲点であり、すなわち吸水限界なのです8。
JISで測ると吸水限界が大きくなる
日本産業規格(JIS K 7223:1996)は吸水ポリマー(高吸水性樹脂)の吸水量の試験方法を定めています。JIS K 7223が定める試験方法は「ティーバック法」と呼ばれ、3つの性能のうち「保持力」が測れる測定法に分類されます9。
〈商品〉としての携帯・簡易トイレの仕様に、付属の吸水ポリマーの吸水量が明示されていることがあります。
(あくまでも一般論として)仮に、この明示された吸水量がJIS K 7223の試験方法によって測定されたものであれば、その値は、ゲル化力としての吸水量であるべき本来の吸水限界よりも大きい可能性(おそれ)があります。もしそうであれば、〈吸いとる何か〉としては「買い被られた吸水限界である」といわざるを得ません。
その場合は、1包では足りなくなる頻度がより高まることになります。
“何包”使ってでも、安定させる
吸水限界をどのように測定し、あるいはどの量で設定したとしても、吸水量にじゅうぶんな余裕がない限り、「常に支障なく1回分として取り扱えること」への担保はありません。
つまり、携帯・簡易トイレの吸水ポリマー(凝固剤)は1回1包とは限らない、ということです。
したがって、1包といわず何包使ってでも、必ず水分を【じゅうぶん】に安定させてください。
目安は、安定して安心できて「(これなら)ごみに出しても大丈夫」と思えるまで、です。
脚注
- 公益財団法人長寿科学振興財団 (2019年6月21日)「頻尿の対処法」『健康長寿ネット』,https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kango/hin-nyou.html(2024年7月2日情報取得) ↩︎
- 日本泌尿器科学会「尿が近い、尿の回数が多い ~頻尿~」,https://www.urol.or.jp/public/symptom/02.html(2024年7月2日情報取得) ↩︎
- 野尻佳克(2012年11月26日)「国立長寿医療健康センターでのBVI6100の使用」『Sysmex Journal Web』13(3),https://www.sysmex.co.jp/products_solutions/library/journal/vol13_no3/bfvlfm000000cv8b-att/2012_Vol13_3_03.pdf(2024年7月2日情報取得) ↩︎
- 江口正信(2016年8月20日)「膀胱に尿がたまると尿意をもよおすのはなぜ?」『看護roo!』,https://www.kango-roo.com/learning/2528/(2024年7月2日情報取得) ↩︎
- 増田房義(1987年11月)『高吸水性ポリマー』(高分子素材 One Point ; 4)共立出版,p.56,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001889173(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 増田房義(1987年11月)『高吸水性ポリマー』(高分子素材 One Point ; 4)共立出版,p.53,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001889173(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 増田房義(1987年11月)『高吸水性ポリマー』(高分子素材 One Point ; 4)共立出版,pp.51–54,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001889173(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 増田房義(1987年11月)『高吸水性ポリマー』(高分子素材 One Point ; 4)共立出版,p.56,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001889173(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 増田房義(1987年11月)『高吸水性ポリマー』(高分子素材 One Point ; 4)共立出版,pp.51–54,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001889173(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎