漫画「ゼロからわかる携帯・簡易トイレ」の内容を詳しく解説するページです。このページは「1 紹介編」が対象です。
最終更新日 2024年7月8日
記事執筆 長谷川高士
くまもと水と福祉の研究室 主任研究員
「1 紹介編」では、断水時の排せつ方法におけるその本質的な役割を示すことで、携帯・簡易トイレがごみに出す方法であり、断水時の切り札であることを紹介しています。
Point 1
断水すると水洗トイレが「いつもどおり」には使えない
水道から水が出なくなる断水。水洗トイレには水道の水が欠かせないため、断水すると水洗トイレがいつもどおりには使えなくなります。
災害時のトイレ問題の主な原因は断水であるといえます。
水洗トイレとは何か
トイレといえば「水洗トイレ」と想像する人が多数派になって久しいですが、果たして現状はどうでしょうか。
自宅の水洗トイレ率は96%
国の発表1によれば、自宅の水洗トイレ率(水洗化率)は令和4(2022)年度末時点で96.1%(パーセント)。20人に19人以上が自宅で水洗トイレを使っています。
一方、全国で約490万人がトイレが水洗ではない建物に住んでいます。また全国の5つの県で同時点での自宅の水洗トイレ率が85%以下です2。つまり、トイレといえば「水洗トイレ」――では、必ずしもないようです。
水洗とは「水で運ぶこと」
水洗ではないトイレは「非水洗トイレ」と呼ばます。非水洗トイレの代表が「汲み取り式トイレ」です。
否定的なニュアンスを持つ「非」という接頭語からは、トイレ水洗化の背景にあった“切実さ”を伺い知ることができます。感染症など公衆衛生上の重要課題を解決するには適切な汚水処理が必要であり、その実現には水洗トイレが欠かせませんでした。
こうして生まれのが水洗トイレ。処理施設である浄化センター(下水道終末処理場)や浄化槽まで排せつ物を水で運ぶトイレです。
断水とは何か
断水とは、水道から水が出なくする措置、あるいは出なくなった結果のことです。
水道設備が被害を受ける
明確な理由に基づいて水が出ないようにする措置を「計画断水」、不測の理由によって意図せず水が出なくなった結果を「事故断水」と呼びます。
考えられる断水の理由は、計画断水が水道管の修理などの工事であるのに対して、事故断水は水道管の破損、そして地震や台風などの自然災害です。災害が発生し、水道管をはじめとする水道の設備や施設に被害が及ぶことで水道水の供給が障害されるからです。
工場や保管庫の被害
災害によって水道の設備や施設が受ける被害はさまざまです。
水道管が折れたり抜けたりする破損は比較的想像しやすい被害の1つですが、食品工業加工品である水道水を製造している浄水場や、在庫を保管している配水池(はいすいち)が津波や土砂崩れなどに襲われると、復旧にかかる期間が長くなる傾向にあります。
断水すると「排せつ物を運べない」
排せつ物を運ぶための水をトイレに供給するのが水道(上水道)です。断水すれば、その水が供給されません。
すると水洗トイレは、排せつ物を目的地まで運ぶことができません。目的地どころかトイレ(便器)の外に出すことすらできません。
それでは本来の役割を果たせないことから、断水すると水洗トイレがいつもどおりには使えない、といえます。
断水時でもできること
「断水すると水洗トイレがいつもどおりには使えない」
この文章から、2つ重要なメッセージを逆説的に読み取ることができます。
非水洗トイレは使える
1つ目は「断水すると使えなくなるのは水洗トイレであって、非水洗トイレではない」というメッセージ。トイレ室内、便器、汲み取り便槽など構成する設備が壊れていなければ、非水洗の汲み取り式トイレ3は断水してもいつもどおりに使用できます。
いつもどおりでなければ使える
2つ目は「断水するとできなくなるのは(水洗トイレの)いつもどおりの使い方であって、【いつもどおりではない使い方】までを否定してはいない」というメッセージです。
排せつという行為に欠かせない大切な要素の1つが安心できる空間です。トイレ室内が安全であり、かつ便器も壊れていなければ、排せつ行為のための空間として積極的に利用すべきです。これは断水時のトイレで見逃されがちなポイントです。
水を流してもよいか?
断水が発生したときにトイレに水を流してよいか。これは断水時のトイレについてよくある疑問の1つです。
断水時に水を流すとは
断水時にトイレに水を流すとは、具体的には、浴槽の残り湯など何らかの方法で調達した水を使って便器の中の排せつ物を流す、という行為を指します。
この行為自体は水洗トイレの【いつもどおりでない使い方】として選ぶことができる手段の1つです。そして同時に、状況によっては選べない、あるいは選ぶべきでない手段にもなり得ます。
「流さない方がいい」場合
トイレに水を流せない、あるいは流すべきでないのは、次のような場合です。
(災害など断水と同じ原因により)
排水管を含む下水道設備が被害を受けており、
- 水を流すことによって、2次的な損害が発生する場合
:流せない - 水を流すことによって、2次的な損害が発生するおそれがある場合
:流すべきでない - 市町村などの行政機関から「水を流さないでください」と広報されている場合
:流すべきでない
特に、「流さないで」と市町村から広報されている間は、必ずこれに従うようにします。
直後は「流さない方がいい」
災害の発生直後は、トイレをはじめとする水回り設備に水を流すことを「控えるべき時期」だといえます。水を流すことによる2次的な損害の発生4が大いに予見できるからです。
このことから「(大地震など)災害の発生直後は、トイレに水を流す前に排水管などの被害の確認を」という呼びかけ5が国土交通省によって行われています。
ただし、呼びかけが求めている「排水管などの被害の確認6」は、実際は手軽に行えるほど簡単なものではありません。特に甚大な災害の発生直後ともなれば、この確認を「何よりも優先して行うこと」は現実的ではありません。
災害の発災直後はトイレに水を流さない方がよく、だからこそ「それ以外の方法」が必要です。
排水管の確認方法
繰り返しになりますが、排水管の「被害の有無や程度を確認する作業」は、残念ながら手軽で簡単なものではありません。「(断水時に)トイレに水を流す」ことは、安心して選び、安全に行うには少々「ハードル高め」の方法なのです。
排水管の被害の確認方法は、次の資料に詳しく紹介されています。手軽で簡単ではないからこそ、事前の準備と練習が有効です。
- 福岡市(2018年2月)「大地震に備えよう!マンション防災・減災マニュアル」
14ページの「1-4 排水管の通水点検」に確認方法が紹介されています。マンションを対象としたマニュアルですが、戸建住宅にも応用できる内容です。 - 能登町(2024年2月)「令和6年能登半島地震における下水道の使用についてのお願い」
ページ中段の「下水道使用可否の確認方法」に確認方法が紹介されています。令和6年能登半島地震において住民に広報された内容です。
なお一部においては、国からの呼びかけが転じて伝わってもいるようです。中にはこの行為の禁止ともとれる内容(「災害時にはトイレに水を流してはならない」など)も見受けられます。
この呼びかけは、「どんな場合も」や「ずっと」など、条件や期限を無視してトイレに水を流すことを禁止するものでは決してありません。
有効な手段の1つである「トイレに水を流す」を選ぶことが、無用に制限されることのないように注意が必要です。
Point 2
災害時には、水気を吸わせきれば、排せつ物はごみにも出せる
普段からごみに出せる「使用済みの紙おむつ」は災害時でもごみに出せます。災害時には、紙おむつと同じように水気を吸わせきれば、排せつ物はごみに出すことができます。
使用済みの紙おむつは「ごみに出せる」
使用済みの紙おむつは、普段から「燃やせるごみ」として出すことができます。このことを2つの観点から解説します。
民間による調査と国の見解
紙おむつの同業組合である一般社団法人日本衛生材料工業連合会が2008年に行った調査7(以下、「日衛連調査」とします)によれば、調査に協力したほぼ全ての市町村が、家庭から出る使用済みの紙おむつを「家庭ごみとして収集している」と回答しています。
これは2020年に環境省が発表した「廃棄される使用済紙おむつの多くは市区町村等の廃棄物処理施設において焼却処分されている」という見解8とも一致します。
一般廃棄物の責任は市町村にある
し尿(排せつ物)は法律が定める「一般廃棄物」に分類されます9。そして、家庭ごみとしての「使用済紙おむつ」も同じく一般廃棄物として扱われています10。
一般廃棄物の収集、運搬および処分の義務は法律によって市町村に課されています11。ゆえに一般廃棄物である使用済みの紙おむつは、どのような方法であれ、これを収集し、運搬し、処分する義務が市町村にあるといえます。
日衛連調査の結果や環境省の見解は、多くの市町村が「家庭ごみとして収集し、焼却処分する」という方法で、この義務を果たしていることを示しています。
災害時でも「ごみに出せる」
普段からごみに出せる使用済みの紙おむつは、たとえ災害時であっても、もちろん同じようにごみに出すことができます。
災害が発生した場合、費用の一部が国から補助される12ことはあっても、一般廃棄物の収集、運搬および処分についての市町村の義務が免ぜられることはないからです。
ただし、特に発災数日間のいわゆる超急性期には、人命を救助する、復旧体制を整えるなどの緊急度や重要度の高い業務が優先されることから、平時とは異なるスケジュールや方法でごみの収集が行われることは、じゅうぶんに考えられます。
水分が安定しているから「ごみに出せる」
ところで、使用済みの紙おむつをごみに出せるのは、排せつ物の水分が吸収されて安定しているからです。
逆に、水分が吸収されず不安定な状態のものは、ごみとして収集することができません。
一般的な紙おむつは3層構造です。3つの層は肌に触れる側から順に表面材、吸水材、防水材と呼ばれています。2層目の吸水材が、排せつ物の水分を吸収して安定させる役割を担っています。
吸水材には吸収紙、綿状パルプ、吸水性ポリマー(高分子吸水材)という3つの素材が使われており、吸水ポリマーを包んだ綿状パルプの上に吸水紙を重ねた形状をしています13。
同じように水分を安定させられれば「ごみに出せる」
上の3つの内容は、次の2つの事実にまとめられます。
使用済みの紙おむつは、
- 水分が吸収されて安定しているから、ごみに出せる
- 災害時でも、ごみに出せる
この2つの事実を前提として導けるのが、次の結論です。
(使用済みの紙おむつと)同じ程度以上に水分を吸収して安定させられていれば、その状態の排せつ物は、災害時にごみに出すことができる
大切なのは水分をじゅうぶんに吸収させて安定させる、すなわち「水気を吸わせきる」ことです。
もっとも確実な方法の1つが紙おむつを使うことです。もちろん身に付ける必要はありません。
具体的なやり方は「2 準備編」で紹介しています。
「2 準備編」の
うんちも「ごみに出せる」
「うんち(便・べん)もごみに出せる」
漫画では「排せつ物」という文字の前後におしっことうんちのイラストを描くことで、このメッセージを直感的に伝えています。
「便(べん)もごみに出せる」といえる理由を詳しく解説します。
使用済みの紙おむつの「出し方」 ―便を分ける話―
日衛連調査の質問項目の1つに「(使用済みの紙おむつの)廃棄に関する要望」があり、調査に協力した市町村の9割以上が「(使用済みの紙おむつをごみに出すときには)排泄物はトイレに流してから出す」ことを要望しています14。
この場合の「排泄物」は便のことを指しており、実際に紙おむつの「(ごみの)出し方の注意点」として「汚物は取り除いてから出してください」と広報している自治体もあります15。
し尿は一般廃棄物であり、その収集、運搬および処分は市町村の義務である一方で、具体的な方法を決める裁量も市町村が持っています。したがって、決定した収集方法に基づいた「ごみの出し方」を広報し、それを守ることを住民に求めるのは行政の取り組みとして当然のものです。
災害時の排せつ物の「出し方」 ―便を分けない話―
一方で、たとえ平時に(使用済みの紙おむつの出し方として)「便を分けて、トイレに流してからごみに出すこと」を住民に求めていたとしても、災害時には同じようにこれを求めることは困難です。
「ごみに出す」という方法を選ぶ理由が「水洗トイレをいつもどおりには使えないこと」であるにもかかわらず、「いつもどおりにトイレを使うこと」をその必要条件として求めることは明らかな矛盾であり、そもそも非現実的だからです。
災害時の排せつ物の「ごみの出し方」は、全ての自治体で明確に広報されているわけではありません。
災害時の排せつ物の「出し方」が、その他の家庭ごみと同じように市町村から明確に広報されれば、住民は安心して備えられるようになります。
このとき次の内容も併せて広報されることが望ましく、それを切に願って止みません。
災害時は、平時(の紙おむつ)とは異なり、水分を吸収して安定させた排せつ物は、便を分けることなくごみに出せる
この内容を積極的に広報している自治体はすでにあり16、今後ますます増えることが期待されます。
Point 3
携帯・簡易トイレとは、実は「ごみに出す」という方法のこと
災害用トイレの種類である携帯・簡易トイレ。実はこれ、「水気を吸わせてごみに出す」という排せつ物処理の方法のことです。
そのためにつくられた〈商品〉を指すこともありますが、このサイトでは携帯・簡易トイレを〈商品〉に限定せず、「水気を吸わせてごみに出す」という断水時の排せつの〈方法〉として説明しています。
開発のきっかけは渋滞での切実な悩み
「携帯・簡易トイレ」という言葉がたどった歴史を、ざっと振り返ってみましょう。
「携帯トイレ」という言葉の萌芽
「携帯トイレ」という言葉が使われた活字の例として、古いものでは1964(昭和39)年の雑誌記事17や1970(昭和45)年の雑誌記事18があります。
ただしいずれの記事においても、その実態は尿を一時的に溜めおくための「持ち歩けるトイレ容器」でした。現在最も多くの人がイメージする形式の「携帯トイレ」の誕生までには、更にここから15年の歳月を要します。
マイカー旅行ブームがもたらしたもの
「渋滞中にトイレに行きたくなって、とても困った」
多くの団塊家族がマイカー旅行を楽しむようになった1980年代半ば、日常化する交通渋滞が切実な「排せつ」の悩みをもたらしました。
これは、この悩みに正面から向き合った人たちの物語です。
紙おむつを糸口に発想を転換
渋滞中のトイレの悩みの解消に挑んだチームの1つが、和歌山県の生活雑貨メーカーにありました。
旧来の方法では越えられない壁
車内での使用を想定して当初考えたのは、「容器に溜めるトイレ」でした。既にあった「持ち歩けるトイレ容器」の発想の延長でした。
ところが、容器の中の水分を上手く安定させられず、実用への不安が拭えませんでした。
新素材「吸水性ポリマー」との出会い
そんな折り、吸水性ポリマーを使った新しいタイプの紙おむつが発売されたことを耳にします。吸水性ポリマーは自重の数百倍もの水分(1%の食塩水であれば数十倍)を吸収できる新しい化学素材19でした。
新素材を早速試してみました。すると、排せつ物の水分を見事に安定させることができました。
「水気を吸わせて安定させてごみに出すトイレ」
これまでとは全く異なる発想で、新たな携帯・簡易トイレの誕生20でした。
震災を機に「災害用」として再注目
誕生から10年、携帯・簡易トイレの渋滞需要は落ち着いていました。団塊ジュニアが成人し、家族でのマイカー旅行が相対的に減っていたことも少なからず影響していたようです。
1995年1月、兵庫県南部で大地震が発生します。阪神・淡路大震災です。そして、この震災で起きた混乱の1つが、後に「トイレパニック21」と呼ばれます。
「災害時にはトイレが困る」
水洗トイレが広く普及した都市が抱える災害の新たなリスクを、このとき私たちは初めて知りました。
この混乱をきっかけに、断水時でも使える災害用トイレとして再び注目を集めたのが携帯・簡易トイレでした。以来、携帯・簡易トイレは、代表的な災害用トイレとして多くの人に知られるようになりました。
誰もが知ってる曖昧な言葉だからこそ
あらためて「携帯・簡易トイレ」という言葉を考えてみましょう。
自然に生まれ、自由に扱われてきた言葉
「携帯・簡易トイレ」という言葉の、誕生から現在に至るまでの経緯を振り返ってみました。
お読みいただいたとおり「携帯トイレ」も「簡易トイレ」も社会の中で自然に生まれた言葉です。
そして「携帯」「簡易」「トイレ」の3語はいずれも意味を思い浮かべやすいことから、〈持ち歩ける小型〉から〈運搬できる大型〉まで比較的幅の広い、自由な解釈で使われがちです。
「携帯トイレ」と「簡易トイレ」には、国がガイドラインで示す一応の定義22があります。しかし、多くの人が自らの自由なイメージで使えてしまう言葉である以上、その定義で人々の解釈を縛ることは「もはや困難である」といえます。
誰もが知っていて曖昧であることを生かす
阪神・淡路大震災の発生から四半世紀が過ぎ、「携帯・簡易トイレ」は今や「誰もが1度は耳にしたことがある言葉」になりました。
その一方で、「(求められたとき)その意味を的確に答えることが、実は簡単でない言葉」だともいえます。
「誰もが知っていて、意味が曖昧な言葉」
この特徴を利点と受け止めて、あえて区別や定義をせず、2つをまとめて「携帯・簡易トイレ」と呼ぶことにしました。
そしてこのサイトでは、最も一般的な理解のされ方を前提としつつ、携帯・簡易トイレの本質的な役割を紹介することを目的としています。
「ゼロからわかる携帯・簡易トイレ」というタイトルにはこの思いを込めました。
〈商品〉ではなく〈方法〉として知ってほしい
ごく一般的には、携帯・簡易トイレは〈防災用品の1つ〉として理解されています。いわば〈商品〉としての携帯・簡易トイレです。この理解は全く正しく、誤りはありません。
ただし、この理解は「全体の一面だけを捉えたもの」だともいえます。そしてそのことが、携帯・簡易トイレの価値の可能性をせばめてしまっている恐れがあります。
携帯・簡易トイレは「ごみに出す」という排せつ方法です。水を使わないことから、渋滞中の車内や断水中でも選ぶことができます。これを〈方法〉としての携帯・簡易トイレと呼ぶことにします。
〈商品〉は〈方法〉のための道具の1つです。〈商品〉があれば〈方法〉を行うことがもちろんできます。
一方で、〈商品〉がなくても〈方法〉はできます。〈商品〉は〈方法〉の十分条件ですが必要条件ではありません。
「〈商品〉としての携帯・簡易トイレがないから、〈方法〉としての携帯・簡易トイレができない」
このような残念な誤解を生まないために、〈方法〉としての携帯・簡易トイレをゼロから紹介しています。
Point 4
「ごみに出す」は、トイレで困ったときの切り札になる
断水時のトイレの方法には仮設トイレやマンホールトイレ、水で流す、外でする、などもあります。ただし、環境や状況によらず選ぶことができるのは「ごみに出す」という方法だけです。
「災害時には、水気を吸わせきれば、排せつ物はごみにも出せる」。これを思い出せることがトイレで困ったときの切り札になります。
状況に左右されない唯一の方法
断水時に選ぶことができるトイレの方法(排せつ方法)は大まかに分けて4つ(細かくは5つ)あります。
それらの方法を水や運搬・組立の「要否」、排水設備の被害や(天候など)屋外状況から受ける「影響の有無」で評価し、比較しやすいように整理したものが下の表です。
※左右にスワイプ(スクロール)すると
← 表の全体が見られます →
トイレ の方法 (排せつ 方法) | 仮設トイレ・ マンホールトイレ | 水で流す | 外でする | 携帯・簡易 トイレ | |
---|---|---|---|---|---|
非水洗式 (貯留・ 汲取型) | 半水洗式 (下水道 接続型) | ||||
水の要否 | 水は不要 | 水が必要 | 必要 | 不要 | 不要 |
運搬・組立 の要否 | 運搬・組立が必要 | 不要 | 不要 | 不要 | |
排水設備の 被害の影響 | 排水設備の 被害は 不問 | 排水設備の 被害の 影響あり | 影響あり | 不問 | 不問 |
天候など 屋外状況 の影響 | 屋外状況の影響あり | 影響なし | 影響あり | 影響なし |
環境や状況に左右されることなく選べるのは、「ごみに出す」という方法である携帯・簡易トイレだけです。
〈思い付ける〉は生きる力
私たちが生きるうえで欠かせない力の1つに〈思い付ける〉という能力があります。
課題や障害に直面すると、私たちは何らの方法を思い付くことで、それを解決したり、乗り越えたり、あるいは回避したりします。方法は自分自身で思い付くこともあれば、思い付いた誰かに教えてもらうこともあります。
必ずしも最善とは限りませんが、思い付けたことでその方法を選ぶことができるため、思い付けることや思い付ける人がそばにいることは大切な生きる力だといえます。
“確実性”重視なら〈ひらめける〉より〈思い出せる〉
〈思い付く〉という脳の作用は2つに分けられます。〈ひらめく〉と〈思い出す〉です。
この2つは完全に分けられるわけではありませんが、おおむね次のような特徴があります。
- 〈ひらめく〉:記憶している複数の情報同士を組み合わせて新しいアイディアを生み出す
- 〈思い出す〉:記憶している情報そのものを引き出す
〈ひらめける〉のも大切な力です。ただし、当てにするには少々心もとなく、いささか不安が残ります。
確実性をより高くしたければ、ひらめきの土台となるの情報は〈思い出せる〉ようになっておくべきだといえます。
「ひらめきの土台となる情報を、思い出せるようになるきっかけにしてほしい」
そう願って、この漫画とサイトを制作しました。
〈思い出せる〉ことが切り札になる
「災害時には、水気を吸わせきれば、排せつ物はごみにも出せる」
これを思い出せることが、トイレで困ったときの切り札になります。そして、切り札であると同時に、あなたと、あなたの大切な人の尊厳を守ってくれる最後の砦でもあります。
必ず思い出せるように、災害時の心の備えとしてしっかりと足しておいてください。
脚注
- 環境省(2024年3月)「日本の廃棄物処理(令和4年度版)」,p.38,https://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/ippan/r4/data/disposal.pdf(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 環境省(2024年3月)「一般廃棄物処理実態調査結果(令和4年度)」,https://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/ippan/r4/index.html(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 汲み取りトイレの中には少量の水を使う簡易水洗トイレという種類があります。簡易水洗トイレも水を使っていることから、断水すればいつもどおりには使えなくなります。ただし水洗トイレと比べれば、簡易水洗トイレは断水中でも「いつもに近い状況」で使用できるといえます。 ↩︎
- 国土交通省(2017年3月)「災害時のトイレ、どうする?」,pp.1–4,https://www.mlit.go.jp/common/001180224.pdf(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 国土交通省(2017年3月)「災害時のトイレ、どうする?」,p.5,https://www.mlit.go.jp/common/001180224.pdf(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 国土交通省(2017年3月)「災害時のトイレ、どうする?」,p.14,https://www.mlit.go.jp/common/001180224.pdf(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 一般社団法人日本衛生材料工業連合会(2009年)「日衛連NEWS」 No.65,p.5,https://www.jhpia.or.jp/pdf/news65.pdf(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 環境省(2020年3月31日)「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドラインについて」,https://www.env.go.jp/press/107897.html(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第2条第2項,https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 環境省(2020年3月)「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」,p.6,https://www.env.go.jp/content/900515346.pdf(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第6条の2第1項,https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第22条,https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 一般社団法人日本衛生材料工業連合会(作成年不明)「紙おむつの構造」,https://www.jhpia.or.jp/product/diaper/data/structure.html(2024年6月18日情報取得) ↩︎
- 一般社団法人日本衛生材料工業連合会(2009年)「日衛連NEWS」 No.65,p.6,https://www.jhpia.or.jp/pdf/news65.pdf(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 熊本市(2018年)「熊本市ごみ分別辞典(平成30年11月28日時点)」,p.13,https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=18873&sub_id=6&flid=152867(2024年6月17日情報取得) ↩︎
- 文京区(2022年10月)「災害時のごみの出し方ガイドブック」,https://www.city.bunkyo.lg.jp/documents/993/202210111552_1.pdf(2024年6月17日情報取得)
「し尿(便と尿を合わせた呼び方)」と記載されており、便を分けることなくごみに出せることが分かります。 ↩︎ - 著者不明(1964年2月)「池田首相と携帯トイレ──文化国ニッポンの名声を賭けたオリンピック作戦 」『週刊サンケイ』13(7)(658),扶桑社,pp.28–32,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000039-I1810218(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 著者不明(1970年4月)「ピンク商品にされた嘆きの女性用携帯トイレ」『週刊文春』12(14)(567),文芸春秋,pp.131–133,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000010807-d3375329(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 増田房義(1987年11月)『高吸水性ポリマー』(高分子素材 One Point ; 4)共立出版,p.9,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001889173(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 携帯・簡易トイレの開発に携わった技術者から直接聞き取った内容に基づいています。 ↩︎
- 日経大阪PR企画出版部 編(1996年2月)『阪神大震災トイレパニック:神戸市環境局ボランティアの奮戦記』日経大阪PR,https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002517446(国立国会図書館サーチ,2024年6月19日情報取得) ↩︎
- 内閣府(2016年4月)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」,pp.12–13,https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_toilet_guideline.pdf(2024年6月20日情報取得) ↩︎